探県記 Vol.79

三徳山三佛寺

(2016年7月)

MITOKUSAN SANBUTSUJI

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日本一危ない国宝鑑賞のため
それでは、あの世に行ってきます!

 
国宝にして日本遺産、2006年に開山1300年を迎えている、三徳山三佛寺・奥の院〝投入堂〟。標高889.7mの山全体が境内であり、投入堂までの参道は〝日本一危ない国宝鑑賞〟といわれるほど険しいことで知られています。
 
今回のミッションは、そんな投入堂までの参拝登山。登山道入り口から投入堂まで約1kmの距離と、約200mの標高差に挑戦です。

入峰修行受付所(参拝登山事務所)で、一番にチェックされるのは足元。「はい皆さん、靴の裏を見せてくだい」。なにせ、参拝という名の登山ですから、革靴はもちろん、ちょっとしたスニーカーではダメ。登山靴でも自然を傷つける金具付きではダメ。そういう人は、受付で藁草履(わらぞうり)を購入。これがなかなかの優れ物で、とくに雨上がりなどは、その威力を発揮します。
 

足元OK。飲み物OK。大切な輪袈裟をかけて、いよいよ出発!
朱い欄干の〝宿入橋〟を渡ると、ここからが修行の始まりです。
 

「三徳山では、皆さんに必ず輪袈裟をかけていただきます。他の山とは違い、ここは修行の山ですから」案内してくださるのは、三徳山三佛寺の米田良順(りょうじゅん)さんです。
 
輪袈裟というと、金糸の刺繍があったりしてカラフルなイメージがありますが、三徳山は白色。宿入橋を渡ったら、もうこちらは〝あの世〟というわけで、白い輪袈裟は死に装束なのだそう。墨で書かれているのは「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」の文字。六根とは「眼・耳・鼻・舌・身・意」を表しています。
 
「生活をしていると、見なくてもいい物を見たり、言ってはいけないことを言ったり、汚れてしまうそうです。三徳山登山は、そういった汚れや欲や迷いを浄化するための修行です。一歩一歩集中して登らないとケガをします。ひとつのことに集中すること。つまり〝禅〟ですね」

 

最初の難所は、目の前に立ちはだかる〝カズラ坂〟。あらわになった木の根っこを頼りに、フィールドアスレチック感覚。その後、しばらく登って、通称〝行者屋敷跡〟で休憩です。
 
「ここからは、〝懺悔(さんげ)、懺悔、六根清浄〟と大きな声で唱えながら登ります。〝六根清浄〟は、〝どっこいしょ〟の語源。力が入る呼吸法です」と良順さん。つまりは、ますます参道が険しくなるということです。

 

日本建築の博物館のような参道の到達点
ついに主役、国宝〝投入堂〟が目の前に!


心情的に、どうしても垂直にしか見えない〝クサリ坂〟にやってきました。クサリを足と足の間に通してしっかり握り、巨岩を登ります。

現れたのは、〝文殊堂(国指定重要文化財)〟。草履を脱いで濡れ縁に腰かけ、しばらく、眼下に広がる絶景を眺めてから、地蔵堂(国指定重要文化財)へ。ともに室町時代後期の建築と推定されています。
 

鎌倉時代の建築とされるのは、〝日本一危ない除夜の鐘〟こと〝鐘楼堂(県指定保護文化財)〟です。
「現代の家のチャイムのようなもの。天に向け、仏様に向けて〝これからお参りいたします〟と合図するわけです」
 

さらに続くのは、左右は崖か!? と思われる細い参道〝馬の背〟から〝牛の背〟を進むと、平安時代後期の建築と推定される〝納経堂(国指定重要文化財)〟から、〝観音堂(県指定保護文化財)〟・〝元結掛堂(県指定保護文化財)〟・〝不動堂(県指定保護文化財)〟へ。3つのお堂は江戸時代の建築です。


 
そして、ついに、やっと崖道を曲がると突然、国宝〝投入堂〟が、なんとも涼しげに優美な姿で出現。5万年かけて出来たという洞窟の中に、それはまるで投げ入れたかのように納まっています。建築は平安時代後期。一部、当時の部材が今も使われているのです。
 
かの土門拳は著作の中で、「奈良、京都と古寺巡礼を続けて、数十の名建築をみてきたが、投入堂のような軽快優美な日本的な美しさは、ついに三佛寺投入堂以外には求められなかった。」さらには、「わたしは日本第一の建築は?と問われたら、三佛寺投入堂をあげるに躊躇しないであろう。」とも書いているんですね。
 

そう、投入堂は、なんとも繊細で女性的。お堂を支える柱は、頼りないほど細く、あえて八角形の仕上げ。より細く華奢に見えるような工夫なのだそうです。
 
「投入堂は、日本の思想を建物によって表現しています。鳥や虫、木や石などと同様に、建物もあくまで自然の一部であるのです」と良順さん。
 
「その思想は〝ザ・瑞風〟という感じ。2017年春に運行を開始する〝トワイライトエクスプレス瑞風〟のコンセプトそのものです」と感慨深げな内山キャプテンでした。
 
片道約1時間の修行登山。一歩一歩集中を続けて、下山の途につくのでした。
 
次の日から、しばらく筋肉痛だったのは言うまでもないのですが、筋肉痛が治まったときの身体の軽さといったら!全ての汚れが清められたかはわかりませんが、これまで感じたことのない感覚だったのは確かです。
もし一度でも、投入堂を見たい!と思われことのある健康な方に、おすすめします〝参拝登山〟。またとない経験になること間違いなしです。
 
【アクセスについて】
●三徳山三佛寺へのアクセス/JR倉吉駅より路線バスで約40分
●鳥取県東伯郡三朝町三徳1010

【WEBサイト】三徳山三佛寺