探県記 Vol.68

八雲塗やま本

(2016年3月)

YAKUMONURI-YAMAMOTO

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源流は江戸後期、松江のお殿様の
お抱え塗師(ぬし)から始まった

 
宍道湖に架かる松江大橋の北詰め、松江大橋通りに、明治22年(1889)創業の八雲塗やま本-山本漆器店はあります。
 
江戸後期、城下町松江は7代藩主・松平治郷の時代。このお殿様は、たいそう趣味人で大名茶人としても知られて、号を不昧(ふまい)といいました。
不昧公は、お抱え塗師を、漆器の盛んな江戸や輪島へ修行に出し、松江での新しい漆器文化を始動。ところが、時代が明治になると、城で働いていた塗師たちの仕事がなくなるという事態に。そこで、ひとりの職人・坂田平一が、日本だけでなく海外の技法も取り入れて独自の漆器を考案。これが八雲塗の始まりといわれています。
 
八雲塗の特徴は、下塗りをした木地に、色漆で文様を描いて絵付け、その上にさらにひと手間、透漆(すきうるし)を塗り重ねる技法です。
 
多くの漆器が、絵付けをして完成させるの対して、八雲塗の場合、仕上げの透漆を重ねて磨く作業を繰り返します。ですから、新品のときよりも使い込んでいったときの方が、文様が鮮やかに浮かび上がってくるという不思議な漆器なのです。
 
こうして出来上がった八雲塗を、「島根の伝統産業にしよう!」と立ち上がったのが、山本喜三郎という人物。八雲塗やま本-山本漆器店の創業者でした。
 

クラシックでありながら、かなりモダン
お客様の声で進化する八雲塗やま本の漆器

 

 
現在、八雲塗やま本-山本漆器店を継ぐのは、「常に新しいものをと、常に考えています」と話される4代目の山本一成さん。そしてこの日、2階の工房では、伝統継承塗師の松原昭さんが、八雲塗で重要な工程となる、素手で磨く作業の真っ最中。塗師歴60年に近い松原さんの手は、誠実で美しい職人の手でした。
 

 
最近では、お客様の「無地が欲しい」というリクエストから誕生した「琥珀の漆塗カップ」が評判を呼んでいます。金箔を貼った上に透漆で仕上げた琥珀色のカップは、当たる光の具合で、飴色にも赤色にも紫色にも見える優雅な一品。手に吸い付くような触感が、また秀逸なのです。
 

「欧米の人は、こうした日本の伝統工芸が本当に好きですね」と目を輝かせるファビアン隊員。
 
店内には、木製の高価なものから、樹脂製の手頃なものまで、見てるだけで楽しくなる漆器がいっぱい。どこか近寄りがたいイメージのあった漆器ですが、こんなにもモダンで洗練されていたとは、驚きとともに嬉しくなる発見でした。 


 
【アクセスについて】
●八雲塗やま本へのアクセス/JR松江駅より松江しんじ湖温泉行きバスで約5分、大橋北詰下車徒歩約1分
●島根県松江市末次町45

【WEBサイト】八雲塗やま本