string(21) "35.008525, 132.206555" 探県記 Vol.151|山陰いいもの探県記|山陰いいもの探県隊

探県記 Vol.151

元重製陶所

(2020年3月)

MOTOSHIGE SEITOUSHO

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ホームセンターのシェア9割
国内最大級のすり鉢メーカーが手がける
石見焼の新ブランド「もとしげ」

 

島根県江津市にある窯元、元重製陶所は石見焼のすり鉢をつくっています。国内の大手すり鉢メーカーは3社のみ。その中でも、年間25万個という最大級の生産を誇っています。主な出荷先は全国のホームセンターで、そのシェアは約9割。知る人ぞ知る窯元なのです。

また10年ほど前から、おろし器づくりも開始。すり鉢・おろし器の2つを専門とする窯元としては、全国唯一の存在です。最近はブランド「もとしげ」を立ち上げ、昨年の『山陰いいものマルシェin松江』では、一日に200個以上の商品を売り上げました。

 

「おろし器は、とても軽い力で大根がすれるので驚かれます」と語る同社の専務・元重慎市さん。その優れた製造の秘密を探検しようと、作業所を見学させてもらいました。

 

広々とした作業場には、見たことのないような機械ばかり並んでいます。ほとんどの機械が手づくりの自社製で、ろくろ成型や釉薬をかける工程は自動化されています。オートメーション作業と手作業は半々。すり鉢の命ともいえるギザギザの櫛目は、「目かき」と呼ばれる手作業でつけられています。

 

「専用の道具を使って、真ん中から外に向かってつけます。手に力を入れすぎると、節目がガタガタになってしまうんですよ。一番気をつかう工程です」。粘土の固さは、気候によって微妙に変わります。その違いを感じて力を加減する、まさに手仕事の技といえます。

 

一方、おろし器のこだわりは刃の鋭さ。粘土の形成では、目指す鋭さが再現できなかったそうです。そこで試行錯誤をくりかえし、ようやくたどり着いたのが、セラミックの塊を細かく砕いてランダムに埋め込み、釉薬で固定する方法。これまでにない独自の製法で、段違いのすりやすさが実現しました。

さらに魅せられるのは、昔ながらの地元の原料を大事にしているところです。粘土は高温の焼成に耐え、強固な焼締めが可能な石見産を使用。赤茶色の部分には耐久性が高い、島根県宍道町の来待石を粉砕した釉薬が用いられています。

 

 

父がすり鉢を専門にすることを英断
息子がセレクトショップの販路を開拓
二度の壁を乗り越えて、今がある

 

元重製陶所は、大正14年に創業。伝統を受け継ぐ窯元として、当初は「はんど」と呼ばれる水がめをつくっていました。ところが水道の普及により需要がなくなり、植木鉢をつくるように。しかし、これもプラスチック製が登場してきました。

そんな時、現社長の元重彰治さんがUターン。当時、需要が伸びていた、すり鉢の専門メーカーになる英断を下しました。かつてエンジニアだった社長は、効率よく生産できる機械を次々に開発。大量生産を可能にして、低価格を実現しました。

また、すり鉢の底に滑り止めのシリコンゴムを付けることを考案し、より使いやすい商品へと改良しました。営業先は陶器店から、当時ちょうど増え始めていたホームセンターに転換。低価格なのに高品質なことから注文が増え、全国にホームセンターが広まるとともに現在に至っています。


 

時代の流れから、近年はすり鉢を使う家庭が少なくなってきました。そこで新しいタイプのすり鉢と、おろし器の生産に着手することになりました。しかし、おろし器の機械開発に取り組んで5年間が過ぎても、発売の目処は立ちませんでした。

そんな時期にUターンしたのが、息子の慎市さんでした。慎市さんは、それまでの開発を受け継ぎ、量産体制を整えました。そして、ついにホームセンターで発売。しかし、まったく売れませんでした。従来のすり鉢の売り上げもいよいよ落ち込み、苦しい状況になってきました。

 

「使えば間違いなく、良いものだと分かってもらえる自信はある。でも、ホームセンターでは他のものに埋もれてしまって、良さを伝えることができない」と思案したそうです。どうすれば、伝えることができるのか。たどり着いた答えは、百貨店や雑貨のセレクトショップ向けブランド「すり鉢・おろし器 専門窯元 もとしげ」を立ち上げること。こだわりを持った人をターゲットに絞ったのです。

百貨店や雑貨のセレクトショップでは「本当に使いやすい暮らしの道具」として取り扱われ、商品に込めた想いと技術を伝えることができるようになりました。「展示会でも好評で、売り上げが増えてきました」と、確かな手応えを感じておられます。

 

食の楽しみのひとつである食器。そして、食を作るひとつの道具、すり鉢とおろし器。今まで裏方だった彼らがデザインをより洗練することにより、オシャレな器としても注目されるようになりました。

例えば、ゴマを擦ったすり鉢で、ゴマ和えやゴマダレを作り、そのまま食卓に。また、おろし器は手軽にチーズおろしとしても使えます。どちらも大中小の3サイズ。お気に入りのサイズ感を選んで、こだわりの逸品として食卓に並べる。それも素敵です。どこにもあるものではなく、ちょっといいもの。父と息子が誕生させた「もとしげ」との出合いから、明日が変わりそうです。


 

 
【アクセスについて】
●元重製陶所へのアクセス/JR江津駅から車で約5分
●島根県江津市嘉久志町イ1762
【WEBサイト】元重製陶所