string(21) "35.392688, 132.687029" 探県記 Vol.148|山陰いいもの探県記|山陰いいもの探県隊

探県記 Vol.148

吉や

(2019年12月)

KICHIYA

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「木地人形」の創始者は
鳴子こけしを継承する
知る人ぞ知る工人だった

 
師走になって、来年の干支飾りが気になる時季。島根県出雲市に、こけし作りのロクロ技術を生かして、丸みをおびた小さな干支人形を創作する職人さんがおられます。美しい曲線を風合いとする、この人形は「木地人形」と名付けられています。干支のほか、雛人形、五月人形の兜などもあり、島根県ふるさと伝統工芸品にも指定されています。

 

 
木地人形の創始者は、工人(こうじん)の松谷伸吉さん。工人とは、伝統こけしを制作する職人のことです。松谷さんは、島根県雲南市生まれ。「こけしの顔を見たとき、自分を一番表現できると思ったんですよ」と、高校卒業後は宮城県へ。「鳴子こけし」を受け継ぐ岡崎才吉(さいきち)氏、仁治(じんじ)氏の親子に師事し、10年間ほど技術を磨かれました。

 
その後、昭和60年にUターン。ちょうどオープンした島根ワイナリーの向かいに工房を開き、木地人形づくりを始めました。しばらく木地人形の創作に没頭していた松谷さんは、平成6年、こけしの制作を再開しました。こけし界で名高いコレクターの熱心な勧めがあったからです。そして、自分らしい作品を追求するなか、師匠・岡崎仁治氏の体調が思わしくないと聞いて、鳴子こけしの継承を決意。伝統的な作風を極めるための努力を惜しまず、平成24年に日本三大こけしコンクールのひとつ、「全国こけし祭り」で入賞に輝きました。

 
鳴子こけしは、首を回すと「きいきい」と音が鳴ることが特徴です。これはろくろを回転させながら頭部を胴の部分にはめ込む、「首入れ」と呼ばれる独特の技法が用いられているためです。丸みを帯びた肩に中央に向かって少し細くなり、裾に向かって再び広がった安定感のある姿。胴体の模様は大輪の菊を代表に、楓や牡丹なども見られます。童の顔には前髪が描かれ、あどけない素朴な表情が持ち味です。伸吉こけしの魅力は、やさしく繊細な眼差し。そこはかとなく上品な雰囲気を漂わせ、その愛らしい可憐さに癒されます。
現在、松谷さんが新しく制作したこけしは、コンクールでないとお目にかかれません。作品数が少ないこともあり、いわば“幻のこけし”とも言えます。

 
「手元に作品を残すことはないよ。その時、最高だと思ってつくっているから。とっておくと頭にイメージがこびりついて、いつまでも越えられないからね」。
その言葉には、ひたむきに高みを目指す厳しさが感じられました。「今つくってみたいのは、キレがあるこけし」。それもまた興味深く楽しみです。
 

手にとりたくなる懐かしさ
夫が削り出し、妻が手描きで彩色
あうんの呼吸から生まれる干支人形

 

 
ふだんは制作に集中するため、工房『山のうえの吉や』に居る松谷伸吉さん。この工房は日御碕の山の上にあり、絶景の夕日を眺めることができます。訪ねてみると、干支のネズミ作りの最中でした。ロクロを回転させながら、木片にノミを当てて成形。材料は、県内産のアオハダやミズキが使われています。

 
白い木肌が絵付けに適しているそうです。ロクロに続いて丸ノコ、糸ノコなどを使って形を削り出していきます。どうやら、成形は完了。でも、まだ正体不明・・・・。この後、描彩と呼ばれる絵付け、線描きの作業をすることで、ようやくネズミと分かるようになるのです。

 
描彩は伸吉さんの奥様、ちどりさんが担当されています。出雲大社の近く、築100年以上の古民家をリノベーションしたギャラリー『アントワークスギャラリー』のオーナーでもあります。このお店には木地人形のほか、全国からセレクトした作家さんの手作り作品が展示販売されています。毎月1回、イベントも開催。陶器、ガラス、漆器、織物などの展示会が人気を呼んでいます。

 

 
ちどりさんは、ギャラリー内の作業場で描彩を行います。「隣り合わせの色が互いに引き立つよう、色合わせを楽しんでいます。難しいのは、やっぱり目を描くとき。緊張しますね」。そんな会話をしながらも、筆はどんどん動いて、木地人形が来上がっていきます。描彩を始めて、もう30年余り。そのきっかけは、伸吉さんを手伝うため。ご夫妻は高校の同級生で、東北の修行時代から苦楽を共にされてきました。「主人は若い頃、俳優の松田優作さんにそっくりだったんですよ」とにっこり。木地人形にあふれる温かさの秘訣は、ご夫妻の共同作業にあるのかもしれません。

 
そんな両親の背中を見て育った、娘の清佳さんも同じ道へ。東京の人形作家、瀬戸英子氏のもとで10年間、修行を積んで帰省。現在は木彫人形の作家として、活躍されています。清佳さんが制作する、桐木彫と胡粉で仕上げる雛人形は大変手間がかかるもの。年間につくれるのは4セットほどで、現在2年待ちのお客様もいるそうです。清佳さんは創作のかたわら、木地人形のスタート点となった島根ワイナリー向かいの工房『じくの店』を守っておられます。
島根県を訪れたら、出雲にある3つのお店巡りはいかがでしょう。親子3人が創り出す、心に響く人形の世界にふれることができます。

 

 
 
【アクセスについて】
●山のうえの吉やへのアクセス/出雲大社前駅から車で約15分
●島根県出雲市大社町日御碕98-1
●アントワークス ギャラリーへのアクセス/出雲大社前駅から徒歩で約2分
●島根県出雲市大社町杵築南1342-8
●じくの店へのアクセス/出雲大社前駅から車で約5分
●島根県出雲市大社町菱根655-1
【WEBサイト】吉や