探県記 Vol.138

ラ・ショコラトリ・ナナイロ

(2019年2月)

LA CHOCOLATERIE NANAIRO

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ひと口ごとに深まる風味と余韻
カカオ豆の買付けから包装まで
全てを手づくりするチョコレート専門店

 

「カカオ豆から板チョコまで」を意味する、「ビーントゥバー」。一貫して同じ場所で作られるチョコレートのことで、いま世界的な広がりを見せています。アメリカで発祥した後、ヨーロッパで盛んになり、日本でも東京を中心に専門店が増えています。
島根県の出雲市斐川町、築地松と水田が織りなす美しい景観の中、目を引く外観の『ラ・ショコラトリ・ナナイロ』が佇んでいます。山陰初のビーントゥバー専門店として、2015年にオープンしました。

 
 同店のショコラティエで、代表の西森亜矢さんは大阪出身。自身が勤務する映像制作会社の出雲市進出に伴い、大阪から8年前に移住。ちょうどその頃、ビーントゥバーの奥深い味わいに感動し、趣味でチョコレートづくりを始めました。当初は焙煎したカカオ豆を、家庭用ごますり器で粉砕していたそうです。
おやつとして差し入れた手づくりチョコレートを、オフィスのスタッフが「おいしい」と喜んでくれて、会社の後押しもあったことから、ビーントゥバー事業として取り組むことになりました。しかし、そこからが失敗の連続でした。

 
2年間、オフィスに設けられた工房でカカオ豆の焙煎条件、粉砕時間、製造工程ごとの温度などを細かくデータ化。それでも独学には限界がありました。
「もっと科学的に勉強したい」と意を決し、チョコレート研究の世界的権威である佐藤清隆さん(広島大学名誉教授、工学博士)を訪ねたところ門前払い。何時間にも渡って熱意を伝えるうちに、ついに熱意が伝わり、全面的に協力してもらえることになりました。

 
「一から勉強のやり直しでした。先生に工房にも来ていただき、レイアウトを全面的に改善しました。温度設定、湿度管理などのアドバイスをもらえて、ようやくイメージする味が作れるようになりました」
 こうして4年前、工房の一角に小さなショップをオープン。同時に通販もスタートし、今では東京から飛行機で来店する熱烈なファンがいるほど、国内外から人気のお店となっています。

 

「味わう楽しさ」+「イメージする楽しさ」
フレーバーノートを味覚のガイドに
より深まるチョコレートの旅

 
同店では毎年2回、春と秋にコレクションを発表しています。新作づくりは、スタッフが集まってテイスティングを行います。これに合わせ、テイスティング期間が始まる1ヶ月ほど前から、味の薄い食事に切り替えて香辛料、アルコール、白砂糖などをできるだけ断ち、舌を休ませるそうです。
体調を万全に整え、テイスティングを重ねて完成させたチョコレートには、「フレーバーノート」が添えられます。「微かに香る菜の花の甘い香り」など、スタッフがそのチョコレートからイメージした味を言葉で表現したもので、相性の良い飲み物なども記載されています。これを参考にしながらチョコレートを味わうと、「なるほど!」と一層楽しみが深まります。

 
また夏と冬には、無農薬・減農薬の国産野菜やフルーツを組み合わせたミニコレクションも登場。この冬は、島根県産えごまの実を使って、プチプチ食感が味わえる新作ができました。
「チョコレートの製造は大変デリケートで、外気の温度や湿度が深く関係してきます。だからこそ、ここの気候風土から生まれる味があると思います」と西森さんは、出雲の地で作ることに深い意義を感じています。

 
昨年11月、メキシコで開催された「メソアメリカ・カカオ・コンテスト」に、西森さんはアジア代表の審査員として参加。その鋭い味覚と安定した実力は、世界でも認められています。
「メキシコのカカオ豆はコンテストで上位を占め、圧倒的なおいしさがありました。カカオの原種に近いとされ、手に入れるのが難しい憧れの豆です。いつかメキシコ国内の産地別のチョコレートを作ってみたい」と夢がふくらみます。

 
昨年10月には、遠方から来店されるお客様にゆっくりしていただきたいと、工房とオフィスに併設した「ストア&カフェ」がオープンしました。窓の外に広がる斐川平野を眺めながら、チョコレートに良く合う深入りコーヒーを楽しめる空間が誕生し、地元のお客様も増えたそうです。

 
カカオの学名「テオブロマ・カカオ」には、「神様の食べもの」という意味。神話が今日も息づく出雲で、神様の食べものから丁寧に手づくりされるビーントゥバーを味わう。そんな贅沢な旅行は、いかがでしょう。

 
【アクセスについて】
●LA CHOCOLATERIE NANAIROへのアクセス/JR荘原駅から車で約8分
●島根県出雲市斐川町坂田1934
【WEBサイト】LA CHOCOLATERIE NANAIRO