探県記 Vol.131

株式会社 吉川製作所

(2018年8月)

YOSHIKAWA SEISAKUSHO

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納期のないエンブレム製作を
技術力とやる気で見事に完成させた
吉川製作所の計り知れない底力

 
鳥取駅〜出雲市駅を走る、話題の観光列車「あめつち」。その車両正面の“おでこ”と中央、側面を飾るエンブレムの製作は困難を極めました。
それは、取り付け予定日の3カ月ほど前のこと。JR西日本の担当者は困り切っていました。まだ、エンブレムの発注が済んでいないからです。重量や厚さの制限など、いくつかの難点があって、山陰では製作してくれる会社がありませんでした。スケジュールは、どんどん迫ってきました。それでも担当者は「山陰でつくる」という一心から、無理を承知で島根県出雲市の吉川製作所を訪ねました。

 
「地元で製造したいという熱い気持ちが伝わって来て、心を動かされました。エンブレム製作は初めてでしたが、製造業に携わる者として何としてでも山陰で実現しなければと思いました」と同社の常務、吉川昌樹さんは思い起こします。
この出会いから、前代未聞の挑戦が始まりました。材料は重量制限を考慮して金属の中でも軽いアルミニウムを選択し、一枚板を削ることに決定。デザインやサイズなどから、加工プログラムを入力したマシニングセンタでの切削は100時間以上かかります。すでにギリギリの製作期間。1回の失敗も許されないため、シミュレーションとテスト加工が重ねられました。

 
その過程で車両側面のエンブレムは、JRの規定を超えた厚みがあり、取り付けられないことが判明。「そこで薄いひし形の枠をデザインに加え、その枠をボルトで締めることをご提案しました」と語る専務の吉川浩輔さん。また、着色では耐久性の高いアルマイト処理が同社から提案されました。こうしたアイデアと創意工夫で次々と不可能を可能に変え、ついに納期内に完成することができたのです。

 

最新鋭機器に目を奪われる工場
この秋、世界初といえるドイツ製の
大型マシニングセンタも稼働!

 
吉川製作所は精密機械製造業として、昭和42年に創業。厨房機器の大手メーカー・ホシザキ株式会社の島根工場から受注する、食器洗浄器とビールサーバーの製造を中心に業績を伸ばしてきました。
現在は量産体制の整った工場と、1点だけの特注品を製造する工場を完備。金属材料として最も切削が困難とされる合金インコネルの加工も行い、航空機の部品、自動車のシャフトモーターなどの試作品づくりも手がけています。

 
自動化された工場を案内してもらうと、山陰で初めて導入された複合旋盤や、県内ではここにしかない機械がずらりと並んで壮観です。工場の机上に「あめつち」のエンブレム設計図を発見して感慨無量!

 
「社長の経営方針から、1年に1台は設備投資をします。それに応えて従業員も、積極的に技術と知識を身につけてくれています。新しい機械をいち早く導入してノウハウを蓄積しているので、様々なご提案ができるのが当社の強みですね」

 
楽しいこと、新しいことに挑戦する社風が根づき、社内の有志が全日本製造業の「コマ大戦」に出場して、なんと西日本一になったことも。同社のポテンシャルの高さがうかがえます。
今年は、とりわけ大規模な設備投資が進行中です。秋には新しい工場棟が竣工し、日本に初めて輸入されたドイツ製の同時5軸マシニングセンタが本格的に稼働予定です。マシニングセンタとは、自動工具交換機能をもち、目的に合わせてフライス削り、中ぐり、穴あけなど異種の加工を1台で行うことができる工作機械のこと。同社では、さらに自動化パレットチェンジャーという機能を搭載させてバージョンアップ。これは世界初ということです。

 

 
「今後も新しい設備を整え、従業員が面白いと思える仕事にチャレンジしていきます」
山陰の美しい風景の中を走る「あめつち」。そのエンブレムを真に輝かせているのは、日々技術を磨き上げている製造業の方々の誇りに違いありません。

 
【アクセスについて】
●株式会社 吉川製作所へのアクセス/JR西出雲駅から車で5分
●島根県出雲市下古志町769-9
【WEBサイト】株式会社 吉川製作所
 
 

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