探県記 Vol.108

まつえ蜂蜜

(2017年5月)

MATSUE HACHIMITSU

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国宝・松江城のお膝元で採れる生蜂蜜は
ミツバチを愛してやまない養蜂家ファミリーのこだわり

 
国宝・松江城がそびえる観光都市・松江。そんな賑やかな街中から、一歩側道に入っただけで、風景が一変。獣道のような坂道を上ると、ブンブンブンブン、小さな羽音が聞こえてきました。

 
やさしい笑顔で出迎えてくださったのは、特徴ある白い作業服を着た長崎吉祐(よしまさ)さんと悦子さんご夫妻、そして、息子さんの方建(みちたけ)さんです。

 
長崎さんご家族が養蜂を始めたのは、11年前のこと。きっかけは、ご自宅の庭に植わった柿の木にミツバチがたくさん集まって来たことでした。その光景を見た悦子さんが、吉祐さんに「蜂蜜が食べたい」とひと言。こうして、長崎家の養蜂が始まりました。まずは、庭の桜の木で採れた蜂蜜を食べてみました。すると「本当に美味しかったんですよ。今までに食べたことがないくらい!」これが、〝まつえ蜂蜜〟の誕生秘話。

 
そして現在、季節ごと、桜、レンゲ、アカシア、クローバーなどをメインに、1種類の花の蜜からなる単花蜜を主に販売。加熱処理など一切行わず、自然そのままの味と香り、そして酵素などの有効成分を含む〝まつえ蜂蜜〟は、知る人ぞ知る松江の逸品になっています。
 
働き蜂は全員メスで、行動範囲は約2~3㎞。最初は、働き蜂が各々に集めてきた蜂蜜を、巣箱の門番蜂がチェック。「これは良い蜜だ!」と門番蜂のゴーサインが出た蜜を、働き蜂全員で採りに行くのだそう。そして「農薬を付けて帰ってきた働き蜂は絶対に巣箱には入れない」それも門番蜂の大切な仕事です。

 
「蜂たちは、実に効率の良い仕事をしています。門番の他には、大工さんや掃除屋さんなど、役割がきちんと決まっている分業制なんです」と吉祐さん。さらに、働き蜂の仕事は、周りの農家さんにも喜ばれています。たとえば、働き蜂たちの仕事によって自然の受粉交配ができ、形の良いイチゴが育つのだそうです。
 

まつえ蜂蜜を味わったシェフの感想は
「引っかかるものが何もない、きれいな味」

 
今回、養蜂体験をするのは、原博和隊員。「TWILIGHT EXPRESS瑞風」の車内でもその味が楽しめる、松江のLe Restaurant Hara au naturelle(ル・レストラン ハラ・オ ナチュレール)のオーナーシェフ。お店でも〝まつえ蜂蜜〟を使っています。
 
原隊員が任せられたのは、巣箱から巣板を取り出す作業。おそるおそる持ち上げると──
「うわっ重た! 蜜が詰まっているから、確かにこれくらいの重さになりますよね」と感心した様子。

 
取り出した巣板の蜜蓋をナイフで削ぎ落とすと、トロ~っと黄金色のきれいな蜂蜜が流れ出てきました。次に、この巣板を2枚、遠心分離機にセット。手動でグルグル回すと、下方に蜂蜜が集まります。そして、ミツロウなどの混ざり物を漉して取り除いて、桜の蜂蜜が完成。
「本当だ、桜の匂いがツーンとします。こんな体験ができで幸せ!」と原隊員。さっそく味見をして「相変わらずおいしい。きれいな味です。引っかかるものが何もないんですよ」と的確な食レポ。シェフの顔がのぞきます。

 

 
まだ蜜の詰まりきっていない巣板で見せていただいたのは、蜜蜂のダンス。
「これが蜂のダンスです。ほら〝8〟の字を描いているでしょう。このダンスで〝何㎞先においしい蜜がある〟ってことを教えているんです」と愛おしそうに蜜蜂たちを見つめる吉祐さんです。

 
蜜蜂は冬の間の2ヶ月半は十分に休ませて、2月の節分頃に産卵を始めるのだそう。この産卵に入る前の時期が勝負で、巣蜜や砂糖水をたっぷりあげて大切に育てます。「養蜂は〝蜂を養う〟と書きますからね」と吉祐さん。
 
働き蜂たちが活発に働く時期、巣箱に帰って休むのは夜。ですから、巣箱の移動は夜間に行います。「昨夜も、主人が帰宅したのは夜中の1時頃でしたね」と悦子さん。
「蜂たちのことを思うと、何も苦にならない」のです。
まつえ蜂蜜がおいしいのは、愛情と努力を惜しげなく注ぐ長崎さん家族と、そうやって育てられたミツバチたちとの、確かな信頼関係があってこその、深い味わいなのだと思えるような体験でした。

 

【アクセスについて】
●まつえ蜂蜜へのアクセス/JR松江駅より車で約15分
●島根県松江市西川津町746-7
【WEBサイト】しまねのじげもん